霜を経て楓林紅なり
霜を経て、
楓の林全体が 鮮やかに紅葉するように、
人もまた、
苦しい時を経て 大成するという意味を含んでいます。
「経霜楓林紅」は、「経霜楓葉紅」(霜を経て楓葉紅なり)、
また
「楓葉経霜紅」(楓葉霜を経て紅なり)と書くこともあります。
その意味は、どれも同じです。
この句の出典は 不明で、
禅語 というほどのものではないが、
茶室に その一軸が好んで掛けられる理由の一つは、
晩秋の季節感豊かな 美しい句であることにあります。
然し、それ以上に大きな理由は、
楓 が 厳しい霜を経過して、
はじめて美しく紅葉するように、
人もまた
人生のさまざまな苦労を経験し、
それをたえしのぐことによって、
はじめて立派な人物が出来上がる
という深い意味があります。
近頃の世相をみると、
人々のなかには 忍苦精進をきらって、
安逸怠惰に流れ、ともすると節操を忘れて、
安易な世渡りにはしる傾向が 強いように見受けられます。
諺に、「若い時の辛労は買うてもせよ」
(若い時の苦労は 将来のよい経験となるから、お金を払ってでも求めてするがよい)
「艱難汝を玉にす」
(人間は困難な目にあって、これをやりとげて始めて立派になる)とありますが、
さんざん苦労して 出来上がった人格 というものは、
苦労知らずの人とは、一味ちがった深みがあります。
「経霜楓林紅」の一軸を
単に晩秋の茶席向きの風雅な句として鑑賞するにとどめず、
この一軸の意味をよく理解して、
これを拝見したら、
その茶趣はさらに 一段と深まることと思います。
自然宗佛國寺:開山 黙雷和尚が、
行脚(徒歩)55年・下座行(路上坐禅)50年の修行から お伝えしています。
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